大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(ネ)644号 判決 1987年11月26日

控訴人 学校法人 田中学園

右代表者理事 田中稔

右訴訟代理人弁護士 富澤準二郎

同 高田治

同 來山守

同 伴義聖

被控訴人 窪田二郎

右訴訟代理人弁護士 山田尚

同 山田和男

同 鈴木醇一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(一)  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

(三)  被控訴人は、控訴人に対し、金二億円及びこれに対する昭和五六年一月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(五)  右(三)につき仮執行宣言

2  被控訴人

主文同旨

二  主張

当事者双方の主張は、次のように付加するほかは、原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決四枚目表二行目の「原告ほか五名は、」の次に「控訴人に対し」を加え、六枚目表一行目の「残りの」の前に「被控訴人が」を加え、同裏二行目の「昭和五七年」を「昭和五六年」と訂正する。)。

1  控訴人

本件短大設置計画の推進及びその中止により、控訴人は、被控訴人の自認する四四三万四一八七円の費用のほかに、次のような費用を支出し、債務を負担し、また損害を被り、その合計は九六〇四万二八二二円に達するので、返還すべき寄付金はない。

(一)  控訴人は、本件短大の校地に予定した土地を地主に返還するについて、別紙(一)のとおり計一六二八万六九一〇円の解決金を支払った。

(二)  控訴人は、本件短大設置計画に関連して、関係企業等に別紙(二)のとおり計五一三六万円の支払義務を負った。

(三)  控訴人は、本件短大設置計画の中止により、周辺住民に事業に失敗したとの印象を与え、また文部省、静岡県及び富士川町からも信頼を失い、補助金支出を取り止められて住民の不安感を増大させ、このため控訴人経営の幼稚園の園児が減少して収入減となる損害を被った。

その額は二八三九万五九一二円で、明細は別紙(三)のとおりである。

2  被控訴人

(一)  控訴人の右主張は、民事訴訟法一三九条一項により却下されるべきである。

(二)  控訴人の右主張事実は、別紙(二)のうちの福島工務店に関する部分(被控訴人が支払ったもの)を除き、すべて争う。

三  証拠《省略》

理由

一  当裁判所は、原判決と同様に、被控訴人の請求は原判決認容の限度で正当として認容し、被控訴人の請求中その余の部分と控訴人の請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のように付加訂正するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目裏八行目の「五七年」を「五六年」と訂正し、一一枚目裏五行目の「原告ほか五名は」の次に「控訴人に対し」を加える。

2  同一二枚目裏二行目の「その」から六行目の末尾までを次のように改める。

「本件の寄付においては、右の意味での解除条件付であることが当事者間で明示されていたわけではないが、寄付金申込書及び同受領書上、寄付の目的は短大の設置にあることが明記され、寄付金の使途は設立準備費用、土地等の購入及び運営管理費と指定され、管理及び取崩し方法まで定められていることに照らすと、短大設置が奏功しなかったときは使途がなくなるのであるから、事柄の性質からして寄付金は寄付者に返還されることが当然に予定されていたものというべきであり、本件短大設置の不成功を解除条件とするという黙示の意思表示があったと認めるのが相当である。」

3  同一三枚目表一〇行目の「これ」を「控訴人の印章」と改め、その裏九行目の「右の」から一一行目の「事柄ではなく、」までを次のように改める。

「本件の寄付は解除条件付の贈与であって、その条件が成就した以上、返還義務は当然に発生するのであり、仮に返還の具体的手順について理事会の決議を要するとしても、それは控訴人の内部手続の問題に過ぎず、結論に影響する事柄ではないから、」

4  同一六枚目表三行目の「被告名義で」の次に「右八名を含む九名と」を加える。

5  同二一枚目表四行目の冒頭から八行目の末尾までを次のように改める。

「原審証人渡辺浩章、当審証人渡辺幸一、同若月義一の各証言中には、地主たちが六〇〇〇平方メートルの調整池の設置に同意していたとか、昭和五六年一月六日の会合では地代の件が話合われただけで調整池については何も問題にならなかったという趣旨の供述があるが、これとは全く相反する内容の《証拠省略》があり、前記認定のように土地賃貸借当事者間では構築物築造禁止条項までもが設けられていた経緯に照らし、かつ原審及び当審証人丸山博康が右会合当日の模様についての証言をことさらに回避しようとしている形跡が窺われることをあわせ考えると、前記証人渡辺浩章ら三名の証言はたやすく措信しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。」

6  控訴人の当審における新たな主張は、返還すべき現存利益の不存在をいうものであると解されるところ、これについては被控訴人が民事訴訟法一三九条一項により却下を求めているので考えるに、控訴人の右主張は、当審において裁判所が予定した証人三名の尋問を終え、口頭弁論を終結するばかりとなった最終段階で、昭和六二年六月一一日の第七回口頭弁論において同日付準備書面に記載されて裁判所に提出されたものであるが、昭和五六年に寄付金返還の訴えが提起されて以来今日まで右主張を提出できなかった理由は何ら見当たらないのであり、原審及び当審を通じての訴訟の経過に鑑みるときは、もはやこれは当事者の故意又は重過失により時機に遅れた攻撃防御方法の提出であると認めざるをえない。そして、右主張事実に関しては、すでに書証の申出はなされているけれども、控訴人の主張するような費用支出の有無(文書の成立を含む。)と支出の必要性、債務負担の存否等についてさらに証拠調(証人尋問等)を要することとなり、これが訴訟の完結を遅延させることは明らかである。

よって、当裁判所は民事訴訟法一三九条一項により右主張を却下するのが相当であると認める。

二  以上の次第で、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 藤井正雄 武藤冬士己)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例